あいまいミーイング♪ 続いちゃった
 



    ◇◇


さて、もう片やのお二人はと言えば、

「あ〜〜〜、やっと落ち着いた。」

こちらも自宅へ戻って来ており、
リビングのソファーへどさりと腰を落としつつ、
珍しくも判りやすく背条や腕をぐいぐいと伸ばして見せて、
えらい目に遭ったと言わんばかり、吐息混じりな感慨を洩らす中也だが、
それにしちゃあ あっけらかんと状況や敦の体へ馴染んでいたような。
胸高に腕を組み、それは威容に満ちていた落ち着きようで
異能の少女への説得にあたっていたのみならず、
最後には太宰へ一矢報いるような手管まで敷いており。
さすが、あの策士殿との付き合いの長さがあってこその
何とも洒脱な手際だったが、

 「僕の体は ヤでしたか?」

ぽそりとそんな声がして、ウッと息を詰めたそのまま、
すぐのお隣へ視線を向ければ。
今回の騒ぎの一番の被害者だろう虎の子くんが、
兄人のいかにもせいせいしたと言わんばかりの様子にはさすがに物申したくなったらしく。
むうと口許を噛みしめ、上目遣いにこちらを見つめており。
恨みがましげな言いがかりというよりも、
何とはなくトロリとゆるい目許な辺り、疲れ切っていてのご乱心といったところかと。
なので、

 “いや、そんな言い方は。”

何かこう、別の意味まで想起できるんですけれどと。
ちょっとだけ、いやさこの子に比すればずんと大人な中也さん、
そんな蕩けそうな眼差しで 罪な言いようしないでほしいなァとばかり、
内心で困ったように苦笑をしつつ、

「俺としては詰まんなかったからな。何と言っても手前が居ねぇしよ。」
「えー? 居ましたよぉ。」

妙なこと言わないで下さいとムキになりかかったものの、

「見回した中に姿がなかったじゃねぇか。」
「…当たり前じゃないですか。」

しゃあしゃあと言い返されてむむうと頬を膨らます。
他でもない自分が宿っているのが “敦”だったというに、
見回した視野の中にそれを入れるのは無理な相談で。
その代わり、自分の姿をした敦が居たのにそれは数に入ってないらしいのが、

 “中也さんらしいといや らしいかな。”

自分はもうもう生きた心地がしなかった。
こないだ芥川くんの身と入れ替わったとき以上に胸が潰れそうに苦しかったのは、
あまりに違いすぎる自分を見せられたことと、
及び腰の自分が宿ってしまった中也というのが、ちょっと申し訳なかったからでもあって。
猫背はいかんと注意が飛んできたほどに、
見るに堪えなかったのかなぁと、はあと遣る瀬ない吐息をついて見せれば、

「何だ何だ、もう済んだことだろうよ。」

そんなしょぼくれてんじゃねぇと、頬をちょんちょんとつついてくれる。
何とも無造作に腰掛け直し、ひょいと間近へ寄ってた中也であり、
こちらを覗き込んでくる端正なお顔には、さすがに圧倒されてしまうのか、
あややと身を起こした敦が慌てて仰け反れば、
そうまでして逃げなくともと今度はややムッとしたらしく、
切れ長の目が眇められ、瞳の青い光彩の色合いがぐんと深まって

 “きれい…。”

怒らせてしまったかも知れぬというに、
真っ直ぐ差し向けられた強い視線を生み出す瞳の、
その鮮やかな色づきへあっさりと惹かれてしまう剛の者。
睨みつけんとした側はといえば、
あ…と口を開いてこちらを見つめ返す愛し子の様子に気がつき、

「何だよ、忙しい奴だな。」
「だって…綺麗です、中也さんの目。」
「はあ?」

意味が判らんと ますますのこと怪訝そうに目許を眇めれば。
睨まれているも同然なお顔になってしまった兄人だというに、
それへも気づかぬほど双眸にだけご執心か、
無造作に身を乗り出して来かけた少年だったので、

「あ…」
「わっ☆」

ソファーの幅を失念していたか、
いやいや幅は判っていたが、やわらかいところへ力を込めて突いたので
クッションの角っこ、支え切れずにずるりと小さな手をすべらせてしまったらしく。
バランスを崩したそのまま床まで落ちかかる身を、
ひょいと伸びてきた腕が軽々と掬い取る。
すべった手の側の脇へくぐって来た腕は、
そのまま敦のズボンのベルト辺りを掴むとぐいと引き、
落下を防いだのみならず、
たったのそれだけで…二人の間に空いていた距離まで詰めており。
胸元同士が接するほどにも引き寄せられて、

「えと…。//////」

彼もまた驚いたからか、
表情が飛んだまま真っ直ぐこちらを見やっているのが、
ちょっとなんだか…不思議とときめいてしまう。
だって、こんなに精緻な面差しなんだもの。
表情豊かで悪巧みするよな笑い方はなのに楽しかったり、
時々怒ると不穏で、でも限りなく頼もしかったり。
ちょっぴり目許を細めての、猫の唸り声みたいな声音でささやかれると
耳がくすぐったくって我慢できなくなるし、
でもでも伏し目がちになって何か調べものしてる時のお顔は、
他の人に見せちゃヤダと思う敦だったりし。
そういう色んな魅惑の表情を取っ払ってしまっても
冴えた目許に細い鼻梁、すべらかな頬に小さな顎と、
それはそれは端正で印象的な面差しをした美人さん。
そんな中也が、口許をふふと小さな微笑みでほころばせ、

「なあ、もう済んだことだろが。
 機嫌直してくれよ、可愛い敦。」

「〜〜〜っ。///////////」

可愛い敦というくだりは、わざとに声を掠れさせる念の入れよう。
ああもうっ、そういうのは居たたまれなくなるからヤだって言ったのにと。
いやいや言ってはないけど、
やだやだと首をすくめて逃げるので分かってくれたっていいじゃないかと。
口許歪ませ、総身をカチンと固めた虎の子なのを
うくくと笑って双腕回してしっかり捕まえ、
ちょろいちょろいと、これもやはりわざとらしく口にする意地悪な兄人で。

 “…ああ、凄いなぁ。”

ちょっぴり照れくさい甘やかしのオンパレードに翻弄されるうち、
今日の務めの中での申し訳なかったあれやこれやがどんどんと遠ざかる。
居たたまれなかった、身をすくめていた色々が、
どんどんと薄められてしまって、
もはや胸への圧迫なんて出来ぬほどの存在感になり果てており。

 “…いい匂いだなぁ。/////////”

華やかな花束と甘い甘いフルーツの薫りをバランスよく混ぜ、
タバコの匂いをこそりと潜ませたそれ。
目を瞑ってたって、ああこの人の懐だと実感させてくれる素敵な香り。
すんとわざとに吸い込んで、えへへぇと幸せそうに笑ってから、

 そうそう、中也さん。
 ボク、中也さんだった間、ずっとこの匂いの中にいて、
 ぎゅってしてもらってるみたいで頼もしかったなぁ。

 ? 何だそりゃ?

 だから、

「体中 隈なくぎゅうってされてるみたいな気持ちになっちゃって。」
「ほほぉ。」

 結構 余裕あったんだな、じゃあここで再現してやろう♪
 わ、あのあのッ。////////

何でだか急に積極的になった誰か様。
せっかく助けた虎の子さんと一緒くたに
ソファーから転がり落ちないように注意してくださいね?(笑)






  〜Fine〜   17.06.14.〜06.24.

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 *うわぁ、やっと終わったぞ。
  何でだか急にばたたっと忙しくなって
  PC開けないくらいとなっちゃったもんで。
  もうちょっとしっとりとか情緒的にとかいう〆めにしたかったんですが、
  間が空いたので集中力の大半が逃げてしまったのが痛かったです。